個人事業主の代表的な節税方法の一覧と比較

個人事業主の節税

個人事業主の節税には、5つのポイントがあります。

個人事業主の税金は、所得(=収入−経費)に応じて納税額がかなり変わります。個人事業主は、所得が多いほど税金が増えますので、節税を行うには、所得を少なくする、または、経費や控除を増やすことが大切です。

例えば、個人事業主の代表的な税金である所得税を見てみます。

所得税 =( 収入 − 経費 − 所得控除 ) × 税率 − 税額控除

このように、税金をうまく節税するためには、収入、経費、所得控除、税額控除の各項目について、見直すことが重要となります。

個人事業主の節税 5つのポイント

個人事業主の節税には、5つのポイントがあります。

1、所得を見直す

事業所得、給与所得、雑所得など、所得は10種類に分かれています。個人事業主が得る所得は、主に事業所得になりますが、収入の内容によっては、雑所得や給与所得などになることがあります。雑所得なら個人事業税がかからなかったり、給与所得なら給与所得控除が適用されます。自分の所得の種類分けが正しくされているかどうか確認してみましょう。

2、損益通算させる

事業所得、不動産所得、山林所得、譲渡所得が赤字の場合、他の種類の黒字所得と相殺することができます。これを損益通算といいます。また、同じ種類の所得同士でも、赤字と黒字を相殺することができます。これを損益相殺といいます。代表的なものは、株式同士の損益相殺です。
※損益通算や損益相殺をしてもまだ赤字が残る場合は、損失の申告を行えば、赤字分を翌年以降に繰り越すことができます。

3、経費を見直す

家賃、水道光熱費、通信費、新聞代、書籍代、お中元・お歳暮など、収入を得るために必要なものなら経費として計上することができます。事業を始めるために持ち出した固定資産(車、パソコンなど)も忘れずに減価償却費として計上します。詳細は個人事業主の経費をご確認ください。

※何でも経費にできる訳ではなく、明確な根拠や裏付けが必要です。そのため、明確な根拠となるレシートや領収書はできるだけもらうようにしましょう。

経費として可能な費用を計上し、所得控除を計上しても十分に所得がある場合は、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)に加入することも検討しても良いと思います。

掛金は、月5,000円から200,000円で、掛金を最大の月200,000円にすると年間240万円の掛金となり、掛金の全額を経費とすることができます。掛金は自由に変更できるので、毎年の所得に応じて、柔軟に対応することができます。

4、所得控除を見直す

国民健康保険、生命保険、地震保険、小規模企業共済などの各種保険や医療費控除など、自分に当てはまるものがないか確認しておきましょう。詳細は、所得控除をご確認ください。

所得控除として最も節税に使いやすいのでは、小規模企業共済に入ることです。これは個人事業主には退職金がないため作られた制度で、個人事業主の退職金や年金に代わるものですが、小規模企業共済は将来の退職金や年金に代わるだけでなく、節税にもつながるので、おすすめの節税対策です。

掛金は、月1,000円から70,000円まであり、最大の月70,000円の掛金にすれば、年間で84万円の所得控除を受ける(課税所得を84万円減らす)ことができます。また、掛金を自由に変更できるので、利益が出た年は掛金を高くして、利益が出なかった年は、掛金を最低の月1000円に変更すると、毎年の所得に応じて、うまく対応することができます。

同じく、個人事業主の退職金や年金に代わるものとして、国民年金基金iDeCo(個人型確定拠出年金)がありますが、こちらの掛金も全額所得控除とすることができます。

5、税額控除を見直す

配当控除、住宅ローン減税などの税額控除がありますので、自分に当てはまるものがないか確認しておきましょう。詳細は、税額控除をご確認ください。

※節税と脱税の違いについて

節税は合法ですが、脱税は違法です。脱税は、領収書を改ざん、偽装するなどの不正行為をわざと行うことです。 節税は、税法上認められている範囲で正しく処理・申告することになります。



個人事業主の代表的な節税方法

個人事業主の節税には、5つのポイントがあることを説明しましたが、個人事業主の代表的な税金対策・節税対策について説明します。

青色申告で申告する

個人事業主が確定申告する場合、白色申告と青色申告をする2つの方法があります。 少しでも節税したい場合は、「青色申告」を選択しましょう。 青色申告を選択すると、最大65万円の特別控除があります。最大65万円分の所得が圧縮されるため、 所得税の税率が20%の人なら、65万円×20%=13万円分の所得税が節税できます。また、住民税は10%なので、65万円×10%=6.5万円分の住民税が節税となります。所得税と住民税を合わせると、青色申告を選択するだけで、19.5万円の節税となります。

専従者給与を支払う

決算月になると、車やパソコンなどを購入して、節税を行う個人事業主がたくさんいますが、節税効果が高いのはやはり「専従者給与」です。奥さん(夫)や子供が働いていない場合は、家族に毎月給与を支払うと、その給与分を経費とすることができます。わかりやすくいうと、夫の仕事を奥さんや子供が手伝っている場合は、その給与を全額経費にすることができるというものです。

ただし、専従者給与とするためには、以下の要件があります。

  1. 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
  2. 年齢が15歳以上であること (その年の12月31日現在)
  3. 原則、年間6ヵ月を超えて、青色申告者の事業に専念していること

※15歳以上であっても学業に専念する大学生・高校生は、原則として専従者にはなれません。 また、専従者(家族)に給与を支払うということは、事業主は源泉徴収を行う義務が発生し、専従者(家族)も税金を支払う必要が出てきます。そうすると、手続きなどの手間が発生し、かなり大変なのですが、良い例外があります。

家族とはいえ給与を支払うと、個人事業主は毎月の給与から税金を源泉徴収しなければなりませんが、 国税庁 給与所得の源泉徴収税額表 にもあるように、専従者の給与が月8.8万円(年間105.6万)未満なら、毎月の給与から源泉徴収をする必要がありません。また、専従者への給与が、年間100万円未満なら、専従者に所得税や住民税がかからず、専従者は税金を支払う必要がありません。

そのため、多くの個人事業主やフリーランスが、専従者給与を「月8万円」としています。月8万とすることで、事業主は源泉徴収をする必要がなく、専従者も税金を支払わなくて済むという理由からです。

では、専従者給与を月8万円にすると、どれくらいの節税効果があるのか計算してみましょう。 月8万の専従者給与ということは、年間96万円の給与になります。年間96万の給与が全額経費となりますので、所得税の税率が20%だとすると、19.2万円の所得税が節税となります。

また、住民税は所得の10%ですので、9.6万円の住民税が節税となります。所得税と住民税を合わせると、合計28.8万円の税金が節税となります。 所得税や住民税以外にも、個人事業税(3〜5%)も節税となりますし、国民健康保険などの保険料も所得金額によって変わってきますので、これらを合わせると、かなりの金額が節税となることがわかります。

専従者給与は、節税としておすすめですので、要件を満たす方はぜひやるようにしてください。専従者給与をやりたい場合は、管轄する税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出し、確定申告を青色申告に変更する必要があります。

小規模企業共済に加入する

小規模企業共済とは、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する共済制度で、退職金制度がない個人事業主のために退職金を積み立てる制度です。

掛金は小規模企業共済等掛金控除(所得控除)として全額控除の対象となり、年金形式としても退職金としても受け取れます。

掛金は月額1,000円から70,000円まであり、最大の月70,000円の掛金にすれば、年間で84万円の所得控除を受ける(課税所得を84万円減らす)ことができます。所得税の税率が20%の人なら、84万円×2割=16.8万円分の税金が節税できます。

また、掛金は自由に変更できるので、利益が出た年は掛金を高くし、利益が少なかった年は、掛金を最低の月1,000円に変更することも可能です。毎年の事業所得(利益)に応じて、柔軟に対応することができます。

一方、掛金納付月数が、240ヶ月(20年)未満で、正当な理由なく解約する場合は、掛金合計額を下回り、元本割れが生じてしまいますので、ご注意ください。掛金は月額1,000円からですので、所得が多くない場合は少額の掛金に減額して、継続するほうが良いでしょう。

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)に加入する

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)とは、取引先の倒産により個人事業主や中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防止するための制度で、小規模企業共済と同じ、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している共済制度です。

個人事業の開業日から1年以上経過している個人事業主が対象となり、掛金は月5,000円から200,000円となっています。掛金を最大の月200,000円にすると年間で240万円の掛金となり、掛金の全額を経費とすることができます。掛金は自由に変更できるので、毎年の所得に応じて、柔軟に対応することができます。

経営セーフティ共済のメリットは、掛金が所得控除ではなく「経費」となることです。掛金がそのまま経費となり、掛金の上限が年間240万円であるため、所得を大幅に減らすことが可能です。

一方、デメリットとしては、掛金を払ってから40ヶ月(3年4か月)未満に、正当な理由なく解約(任意解約)をする場合には元本割れとなってしまうことや、掛金総額の上限が800万円となっているため、上限となった場合には、経費とすることができなくなります。再度、経費としたい場合には、一度解約して解約手当金を受け取り、もう一度加入することで、再度掛金を払い込むことは可能です。

なお、解約手当金は、その年度の「事業所得」となるため、解約した年度の所得が大幅に増えますので注意しましょう。ただし、解約手当金は「事業所得」になるものの、売上ではありませんので、消費税の納税の基準となる売上1,000万以上は気にしなくて良いでしょう。

解約時期は必ずしも上限の800万円になった月ではなく、自分で自由に決めることができるので、特殊な事情がない場合は、事業の経営状況が良くない年に解約するのがベターでしょう。

国民年金基金に加入する

国民年金基金

国民年金基金とは、会社員や公務員と個人事業主との年金額の差を解消するために創設された公的な年金制度です。

個人事業主は、会社員などのように厚生年金がなく、国民年金だけであるため、将来受け取る年金額に大きな差が生じることから国民年金基金が創設されました。

掛金は加入時の年齢により異なりますが、月額数千円〜68,000円となり、掛金の全額が所得控除となります。iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入している場合は、その掛金と合わせて、月額68,000円以内となっています。

国民年金基金は、掛金が保証されているため、安心感がありますが、一度加入すると原則60歳まで加入することになり、途中で任意に解約することはできません。また、あくまで年金となるため、60歳を超えて満期となっても一括でもらうことはできませんので、ご注意ください。

その分、様々なプランが用意されており、60代前半に年金額を増やすプランなどもあるので、ニーズに合わせてプランを選択すると良いでしょう。

iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入する

個人型確定拠出年金(iDeCo)は、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金の制度です。制度への加入は任意で、自分で申し込み、自分で運用方法を選び、掛金と運用益の合計額を元に、給付を受けることができます。

掛金は、月額5,000円〜68,000円までとなり、掛金の全額が所得控除となります。国民年金基金に加入している場合は、その掛金と合わせて、月額68,000円以内となっています。

また、掛金や運用益は、年金形式としても退職金としても受け取ることができます。

メリットは、掛金が所得控除となることや、運用益が非課税となること、そして運用方法を自分で決められることです。

デメリットは、国民年金基金と同様に、一度加入すると原則60歳まで加入することになり、途中で任意に解約することはできません。また、加入時には2,777円の手数料と、毎月、数百円程度の「口座管理手数料等」がかかります。個人型確定拠出年金(iDeCo)は、iDeCoを扱う金融機関(主に証券会社)に口座を開設して運用を指示しますが、各金融機関共通の「口座管理手数料(毎月167円)」に加え、各金融機関が独自で設定する「運営管理手数料」がかかります。

法人化する(法人成り)

個人事業主から法人へ組織変更することを「法人成り」といいます。個人事業主は所得に応じて税率が大きくなる所得税(最大40%)が適用されるのに対し、法人は2段階の税率の法人税(最大30%)が適用されるため、所得が増えれば、個人事業主より法人の方が節税できます

※法人化は、メリットばかりではありませんので、慎重に判断してください。



個人事業主の節税まとめ

上記の中でも、青色申告は誰でもできますので、節税を考えている個人事業主はまず青色申告で確定申告を行うようにしましょう。

また、自分以外の家族が会社勤めをしておらず、専従者の要件を満たしている場合は、専従者給与を支払うことがおすすめです。税務署に行く手間はありますが、節税効果は高いので、可能な方はやってみると良いでしょう。

青色申告や専従者給与をやりたい場合の手続きは、以下をご覧下さい。
個人事業主の届出書類

次の節税対策として、小規模企業共済、経営セーフティ共済、国民年金基金、個人型確定拠出年金などがありますが、それぞれメリットとデメリットがあるため、一覧で比較してみました。

  小規模企業共済 経営セーフティ共済 国民年金基金 個人型確定拠出年金
扱い 所得控除 経費 所得控除 所得控除
掛金 1,000〜70,000円 5,000〜200,000円 68,000円まで 68,000円まで
掛金変更 可能 可能 可能 可能
受給開始 いつでも いつでも 60歳 or 65歳 60歳〜70歳
途中解約 可能
加入期間が20年以下だと元本割れの可能性あり
可能
加入期間が40ヶ月未満だと元本割れ
不可 不可
利回り 1.0% 0% 1.5% 運用結果に応じて
受給方法 一括 or 分割 一括 年金として分割 一括 or 分割
主なメリット 自由度が高い 掛金が経費となる 長生きするほど有利 自分で運用できる
主なデメリット 加入期間が短いと元本割れする 800万の上限がある
利回りがない
途中解約できない
インフレに弱い
途中解約できない
手数料がかかる

法人化は、法人税よりも個人事業の所得税の方が高くなる時に考えると良いでしょう。

ただし、法人になると、所得にかかわらず、赤字でも、法人税が年間7万円かかります。そのため、1年だけでなく、複数年、継続して大きな利益が見込める場合に検討する方が良いでしょう。

法人化のタイミングとして、一般的に多いのは、個人事業の売上が1,000万を超えた場合です。事業の売上が1,000万を超えた場合、消費税を納付しなければなりません。売上が1,000万だった場合、消費税は約50万前後です。この消費税は通常の個人事業主やフリーランスからすると、かなり手痛い金額となる訳ですが、特例があります。新設法人となると、法人設立から2年目まで消費税が免除されるのです。そのため、個人事業の売上が1,000万を超えると、消費税を免除するために、法人化することがよくあります。

以上、個人事業主の代表的な節税対策を見てきましたが、法人化のタイミングを含めた節税対策については、素人ではなかなか難しいため、税理士と相談しながら進めることが一般的です。どの税理士がよいかわからない場合は、税理士ドットコムで探してみましょう。何度でも無料で税理士を紹介してもらえます。

個人事業主の経費と節税


廃業する場合